最高裁判所第三小法廷 昭和23年(れ)1412号 判決 1949年3月08日
主文
本件上告を棄却する。
理由
辯護人山岸竜の上告趣意第一點について。
横領罪の成立に必要な不法領得の意志とは、他人の物の占有者が委託の任務に背いて、その物につき權限がないのに所有者でなければできないような處分をする意志をいうのであって、必ずしも占有者が自己の利益取得を意圖することを必要とするものではなく、又占有者において不法に處分したものを後日に補填する意志が行爲當時にあったからとて横領罪の成立を妨げるものでもない。本件につき原審の確定した事実によると、被告人は居村の農業會長として、村内の各農家が食糧管理法及び同法に基ずく命令の定めるところによって政府に賣渡すべき米穀すなわち供出米を農業會に寄託し政府への賣渡を委託したので、右供出米を保管中、米穀と魚粕とを交換するため、右保管米を黒石消費組合外二者に宛て送付して横領したというのである。農業會は各農家から寄託を受けた供出米については、政府への賣渡手續を終った後、政府の指圖によって出庫するまでの間は、これを保管する任務を有するのであるから、農業會長がほしいままに他にこれを處分するが如きことは、固より法の許さないところである。そして、前段に説明した理由によれば、原審の確定した事実自體から被告人に横領罪の成立に必要な不法領得の意志のあったことを知ることができるのであるから、原判決には所論のような理由の不備若しくは齟齬の違法はなく、論旨は理由がない。(その他の判決理由は省略する。)
よって刑事訴訟法施行法第二條舊刑事訴訟法第四四六條に從い主文のとおり判決する。
以上は裁判官全員の一致した意見である。
(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介)